2014年7月1日火曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人18

 一旦去ったが、やっぱり気になる。あの立ち去った影は、山崎先生ではないのだろうか。
 あの時、その場の患者に聞いたら、「ここに患者はいなかった」と答えた。しかし、もしそこにいたのが山崎先生なら、確かにそう答えるだろう。

 野間は、急いでさっきの売店に戻った。
 そして、今度は、離れた場所から患者が集まっているところを観察した。
 じっとその森を見ていると、やけに真新しいスニーカーが見えた。年配者が多いので、スニーカーを履いた患者は珍しくなかったが、こんなに新しいのは買ったらすぐに目につく。最近、スニーカーを買った患者はいない。
 野間は、患者の集まる場所にそっと近づく。そのスニーカーから目を離さず。
 近づくと、その表情、立ち振る舞い、服装、雰囲気。どれをとっても患者にしか見えない。まさに同化している。しかし、山﨑先生だ。
 野間は、患者と同化した山崎先生に声をかけた。
 「先生」
 山崎先生はすぐには反応しなかった。しかし、じっと視線を外さずに待っている野間に観念したのか、「おっと。野間君じゃないか。どうしたの?」と平静をよそおって答えた。
 「グループワークについてお話させてください。」
 「うん。うん。まあちょっと話そう。」
 そう言って、腰を上げ、歩きだした。野間も並びついていく。

 少し歩くと、小学校の体育館程度の広さのやや広めの広場がある。適度に緑があり、草や土のにおいがする。
 「ここは本当に変わらない。頑なに変わることを拒んでいる。そうも思えるなぁ。何十年と変わらないというのは私みたいだ。あはっあはっあはっ」
 「変わらない、ですか?」
 「うんそう。そういえば、どうして僕があそこにいるってわかったの?」
 やっぱり隠れていたな、と思いながら、野間はスニーカーの話をした。
 「おっとそうかぁ。気合入りすぎたか。」
 「え?」
 「あっ、いや、なんでもないよ。あはっあはっあはっ。」

 そこからの先生の話は、野間にとっては意外な内容だった。


(つづく)



 

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