野間は、相づちをうてずに固まった。それを気にせず、 山崎は続けた。
「けど、それはしょうがなかった。 それでも僕はやらなきゃいけなかった。」
「やらなきゃいけなかった?」
「うむ。ESをね。」
聞いた瞬間、ドクッと、野間は激しい動悸を感じた。
「けど、それはしょうがなかった。
「やらなきゃいけなかった?」
「うむ。ESをね。」
聞いた瞬間、ドクッと、野間は激しい動悸を感じた。
広場の片隅で立ち止まり、ただ山崎を見返す。
風は穏やかで、木漏れ日が指している。いつもなら、 散歩をする患者が4〜5人はこの広場を歩いているのだが、 今は誰もいない。
他を排し、話が進むことを、広場自体が見守っているかのよう。
風は穏やかで、木漏れ日が指している。いつもなら、
他を排し、話が進むことを、広場自体が見守っているかのよう。
山崎は、野間の様子を確かめるようにしてから、 決心したように続けた。
「昔はね。精神医学は理論的科学的に未熟だった。それでも、 僕みたいな落ちこぼれは、そこに進むしかなかった。 同期の奴らに見下され、教授に言われるまでもない。 自分で分かっていたよ。初めてと言っていい人生の挫折だよね。 ようやく医学部に入ったのにね。家族にさんざんお金かけさせて、 期待させといて、それなのに、 やっぱり自分に医者は合いませんでした、なんて言えないよね。 あはっあはっあはっ。」
野間は、ようやく視線を外した。
「つまりさぁ。僕は劣等感の塊。患者を治せない医者。 それが僕だ。全然、選ばれた人間ではないよね。」
山崎は、笑顔を作り、一呼吸おいてから続けた。
「だから僕は、患者を治したかった。患者のためじゃない。 医者としての自分のためにね。当時、 ESの科学的な機序は誰にも分からなかったけど、 効果があったのは確かだ。僕はESにすがったよ。だから、 男の看護人たちに、嫌がる患者を捕まえ、押さえつけさせた。 執拗だと思われていたよね。」
山崎は、もう一度、固まっている野間に視線を向け、また続けた。
「その患者の時もそうだった。嫌がるのを、 いつものように看護人たちに押さえつけさせ、ESをかけた。 けど、患者は痙攣しなかったんだ。ただぐったりとして。 まれに痙攣しない患者もいるし、どうしたか様子を観察していた。 すると、別の患者が急に暴れだしてね。慌ててみんなで向かった。それで、しばらくして戻った時には、もう手遅れだったよ。」
「昔はね。精神医学は理論的科学的に未熟だった。それでも、
野間は、ようやく視線を外した。
「つまりさぁ。僕は劣等感の塊。患者を治せない医者。
山崎は、笑顔を作り、一呼吸おいてから続けた。
「だから僕は、患者を治したかった。患者のためじゃない。
山崎は、もう一度、固まっている野間に視線を向け、また続けた。
「その患者の時もそうだった。嫌がるのを、
(つづく)
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