野間は、それ以上そのことを聞くことはできず立ち止まった。
なぜ患者さんを殺しかけたのか、なんて、 そんなこと冗談でも口にできない。 人を殺しかけた話に触れるのが怖い気もしたし、 それが現実に精神保健福祉士に起こったことも信じられなかった。
頭がごちゃごちゃと混乱し、麻痺したようだ。
なぜ患者さんを殺しかけたのか、なんて、
頭がごちゃごちゃと混乱し、麻痺したようだ。
反応しない野間を見て、室長は「いずれわかります。」と言った。
そして、立ち去ろうとして思いとどまり、 もう一言しっかりとした声で言った。
「でも大丈夫。支えてもらえますよ。彼女にね。私もそうでした。 」
そして、立ち去ろうとして思いとどまり、
「でも大丈夫。支えてもらえますよ。彼女にね。私もそうでした。
室長を支えた彼女?
野間には誰のことを言っているのか分からなかった。ただ考えがまとまらず呆然としてしまった。
野間には誰のことを言っているのか分からなかった。ただ考えがまとまらず呆然としてしまった。
次の日、室長のことは引っかかったままだが、一旦置いておいて、 野間は小林の退院支援について考えることにした。
まず最初にやるべきこと。それは、 主治医の判断を確認することだ。どんなに精神保健福祉士が退院可能だと考えても、 治療上の責任者は主治医にある。そして、可能なら主治医と意見交換ができるのが望ましい。 単に主治医の指示で動くのではなく。それが、チーム医療だ。
とは言っても、小林さんの主治医はあの人だ。 一筋縄では行かない。しっかりとした主張ができなければ。
とは言っても、小林さんの主治医はあの人だ。
そこで、取りあえず小林のカルテを見てみることにした。 本人を理解するためにも必要だからだ。
「クライエントを理解するには、 その生きてきた歴史を知ることが不可欠。」と、 室長語録帳を紐解いた先輩から教えてもらったことがある。
「クライエントを理解するには、
野間は、病棟に向かった。
病棟に着くと、ナースステーションには、 高齢の看護婦さんが1人。
精神科の長期入院患者がいる病棟には、高齢の看護師が多い。 他の公立病院を定年後に再就職で来たという人も珍しくない。
長期入院病棟の変化の無さには、 そのような看護師が合うということか。それとも、 そのような看護師でも務まるということか。
ただ、精神科における慢性的な看護師不足があるのは事実だ。
そして、老齢の者は変化を好まない。
長期入院病棟の変化の無さには、
ただ、精神科における慢性的な看護師不足があるのは事実だ。
そして、老齢の者は変化を好まない。
野間は、看護師に声をかけた。
「藤さん。小林さんのカルテを見たいんですが、 どこにありますか?」
「え? この棚にあるでしょ。」
「あっ。すいません。 ここにある5年分の前のものを全部見たいんです。 支援に役立つと思うので。」
そう言うと、うーん、と面倒くさそうに唸った。
「それ以前のって言ったって、何十年とあるのよぉ。大変よぉ。」
「それでも見たいんです。」
野間も食い下がる。
すると、「しょうがないわねぇ。病棟の廊下の奥の倉庫知ってる? そこの右側の背の低い棚の奥に入ってるわ。はいこれ。」 と言って鍵を渡してくれた。
野間は、やれやれと思いながらも、お礼を言って鍵を受け取った。
「藤さん。小林さんのカルテを見たいんですが、
「え? この棚にあるでしょ。」
「あっ。すいません。
そう言うと、うーん、と面倒くさそうに唸った。
「それ以前のって言ったって、何十年とあるのよぉ。大変よぉ。」
「それでも見たいんです。」
野間も食い下がる。
すると、「しょうがないわねぇ。病棟の廊下の奥の倉庫知ってる? そこの右側の背の低い棚の奥に入ってるわ。はいこれ。」
野間は、やれやれと思いながらも、お礼を言って鍵を受け取った。
(つづく)