以前、精神科病院での実習を終えた学生から、指導者である精神保健福祉士から受けたとする指導内容を聞いて愕然とした。一種の焦燥感のような、危機感のような、そんな感情を持った。
その学生によると、精神科病院勤務のその精神保健福祉士はこう言ったそうだ。
「私はね。患者を退院させることに傾きすぎた今の日本の状況をおかしいと思ってます。もっと冷静に、客観的にその患者が退院できるかを判断するべきだと思うんです。」
確かに一見正論に聞こえる。
しかし、それを精神障害を持ち、過酷な環境を強いられてきた方々に対して言えるだろうか。家族や人生を奪われてきた人々に言えるのだろうか。
私は、偏っていると言われても、それでも退院を推し進めるべきであると思う。
もちろん、どのような方法で、どのような速度で、といったことは個別化されなければならない。ついには退院に至れない方もいるだろう。
しかし、病院で一生を終えてもいいなどと精神保健福祉士が判断できることではないし、するべきではない。
私が精神科病院で出会った、退院が叶わずに亡くなった多くの患者さんを思うといたたまれない。
今回の物語は、この想いが原点となっている。
読み終えた方々が、精神科病院に長期間入院している方々の早期退院を願わずにはいられなくなることを目指して書き進めたい。