中村四郎は、都内の小さな精神科クリニックで精神保健福祉士として働いている。
新規の受診患者の予診(医師が診察する前の予備的な情報収集面接)と精神保健福祉相談、医師へのコンサルテーション(福祉的な視点からの情報提供等)を担当していた。
今日は、毎週面接にやってくる山本さんの精神保健福祉相談の面接が入っている。山本さんは、40歳代の女性でうつ病を患っている。週1回の診察に合わせて、中村との面談も予約している。
山本さんとの面接でのやりとりは特徴がある。
ある日の山本さんとの面接。
山本「中村さん。今日は本当に困ってしまっているので相談にのってください。本当に困ってしまっていて、どうにもならないんです(涙)」
中村「ふむ。」
山本「実は、子どものことなんですよ。」
中村「ふむ。」
山本「小学校4年生の娘が不登校になりそうで心配している話は以前もしましたが、昨日今日と休んでいるんですよ。」
中村「ふむ。」
山本「朝になると頭が痛いとかお腹が痛いとか。」
中村「ふぅむ」
山本「それで本当に痛いのかなぁ、なんて思うんですが、聞いてみても本人を責めるように伝わったらいけないし」
中村「ほう」
山本「わかったわよ。とだけ言ったんです。そしたら本人安心したようで、笑顔で部屋に戻って行きました。」
中村「ふむ」
山本「けど心配なので、学校に休むと連絡した後、そっと、いいかなぁって声をかけて、部屋に入ったんです。」
中村「ほう」
山本「だって、私が病気だから子どもに負担かけてるんじゃないかって、いつも不安だったから。じっとしていられなくて。」
中村「ふぅむ」
山本「けど、もちろん休んだこととか、私が負担かけてるかなんて問い詰めたりはしませんでしたよ。
中村「ふむ」
山本「一緒にベッドに寝転んで、最近暖かくなってきたね、とか、庭の花が咲いたことを話したの」
中村「ふむ」
山本「そしたらおかしいんですよ。4年生にもなって手をつないで欲しいだって。もちろんつないであげました。」
中村「ふむ」
山本「そしたらすぐ寝ちゃったんですよ。赤ちゃんみたい」
中村「ふむ」
山本「あっそうか。やっぱり甘えたかったのかな。」
中村「ほう」
山本「最近、娘に、もう4年生になったんだから、っていうのが口癖になっていて。」
中村「ほう」
山本「きっとそうね。もっと甘えたかったんだなぁ。きっと」
中村「ふむ」
山本「そういうことだったんですね。わかりました。今日は、本当にありがとうございました。」
山本さんは、笑顔で面接室を後にした。
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