無言で二人してタバコを吸っているが会話は無い。神妙に静かに。
その雰囲気に配慮して、野間はそっと後ろを通り過ぎようとした。
すると、急に話が始まった。室長の声だ。
「約束通り、聞くぞ。いいか。」
患者さんは慌てることもなく、顔を上げて静かに答えた。
「ああ。分かっているよ。聞いてくれ。」
室長はうなずいた。
「入院して40年になるな。そろそろ退院してみないか?」
一呼吸おいて、患者さんが答えた。
「俺はまだ退院しないよ」
すると、室長はあっさりと、「そうか。分かったよ。
そう言い残して、あっさりと席を立った。
立ち上がったところで野間と目が合った。
「おっ!」そう言って、一緒に歩きだした。
歩きながら、懐かしそうに、「あの患者とは長いんですよ。
そんなに長く入院している人の退院への働きかけが、
野間は、思い切ってこのもやもやをぶつけてみた。
「室長! 本当にあの患者さんを退院させたいなら、
室長は、そのまましばらく歩き、
「私は、彼を殺しかけたんです。」そう言って、悲しそうに微笑んだ。
(つづく)