2019年11月13日水曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人4

 病院の裏手には大きな大きな墓石がある。表面には何か書いてあるようだが、宗教用語なのか読めない。
 野間も何だろうかと以前から気になってはいた。

 その前に仁王立ちに立って、先輩が言った。
 「こら!後輩!この墓前でもそんな軽口がきけるのかい!こちらにおわすお方をどなたと心える。先の副将軍、水戸の光圀公にあらせられるぞ!ひかえおろ〜!」
 野間が、リアクションに困っていると説明してくれた。

 「えっと、ここはね、この病院で亡くなった患者さんの中で、身寄りが無かったり、家族が引き取りを拒否した人たちの遺骨をおさめているお墓よ。無縁仏ね。」

 野間は驚いた。そのような患者さんたちがいるのは想像できたが、実際にその墓を見ると、圧倒されてしまう。
 先輩は続けた。
 「ここに入っている人たちの多くは、簡単に言うと寿命よね。高齢で亡くなったわ。死亡退院よ。退院をかなえることなくね。中には、退院について考えることも、退院したいと言うことさえも許されず、胸の奥深くにそっと閉じ込めて、ついには行ってしまった方もいるでしょう。」
 野間は、静かに聞いていた。
 それを確認するようにしてから、急に、先輩は去っていった。歌いながら。
 「♬じーんせーい、楽ありゃ苦ーもあーるーさー♬」

 残された野間は、しばらくそこから動けなかった。
 なぜなら、不意に、すでに亡くなった自分の、大好きなおじいちゃんやおばあちゃんの顔が浮かんできて、その墓石に重なったからだ。
 ぐっと涙をこらえていた。



(つづく)



 

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