野間も何だろうかと以前から気になってはいた。
その前に仁王立ちに立って、先輩が言った。
「こら!後輩!この墓前でもそんな軽口がきけるのかい! こちらにおわすお方をどなたと心える。先の副将軍、 水戸の光圀公にあらせられるぞ!ひかえおろ〜!」
「こら!後輩!この墓前でもそんな軽口がきけるのかい!
野間が、リアクションに困っていると説明してくれた。
「えっと、ここはね、この病院で亡くなった患者さんの中で、 身寄りが無かったり、 家族が引き取りを拒否した人たちの遺骨をおさめているお墓よ。 無縁仏ね。」
野間は驚いた。そのような患者さんたちがいるのは想像できたが、 実際にその墓を見ると、圧倒されてしまう。
先輩は続けた。
「ここに入っている人たちの多くは、簡単に言うと寿命よね。 高齢で亡くなったわ。死亡退院よ。退院をかなえることなくね。 中には、退院について考えることも、 退院したいと言うことさえも許されず、 胸の奥深くにそっと閉じ込めて、 ついには行ってしまった方もいるでしょう。」
野間は、静かに聞いていた。
それを確認するようにしてから、急に、先輩は去っていった。 歌いながら。
「♬じーんせーい、楽ありゃ苦ーもあーるーさー♬」
「♬じーんせーい、楽ありゃ苦ーもあーるーさー♬」
残された野間は、しばらくそこから動けなかった。
なぜなら、不意に、すでに亡くなった自分の、 大好きなおじいちゃんやおばあちゃんの顔が浮かんできて、 その墓石に重なったからだ。
ぐっと涙をこらえていた。
ぐっと涙をこらえていた。
(つづく)
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