2019年11月5日火曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人3

 病棟を出て、医療相談室に戻ると先輩がいた。
 「おかえりんご〜!」

 相変わらずの陽気さに少し引きながらも、それでもほっとさせてくれる雰囲気を持っている。若くて美人だし、精神保健福祉士としての経験も知識もある。
 ただ、不思議なのは、医療相談室の室長を崇拝していることだ。
 室長は、小太りで中年のおじさん。いつもフラフラと病院内を放浪していて、とても崇拝されるような精神保健福祉士には見えない。けど、先輩によれば、室長はカリスマ精神保健福祉士らしい。室長から教わったという言葉を書き溜めている“室長語録帳”が先輩の宝物だ。
 野間は、この精神科病院に就職して2年、いくら先輩に説明されても理解できない。いまでは、その話になると面倒くさいので、あまり触れないようにしている。

 「先輩。」
 「なんだね後輩。」
 「西の1病棟に入院している小林さんってご存知ですか?」
 「ああ。知ってるわよ。何かあったの?」
 「はい。実は今日、私と退院の話をしていた高橋さんが、近くに座っていた小林さんにも退院を勧めたんです。小林さんは無理だと言うのに引かずに。私も、なんで退院したくないのかって聞きました。そしたら小林さんが不穏になっちゃって。」
 「そっかぁ。それは、長期入院患者あるあるだね。」
 「そうですよね。しかしまぁ。退院がそんなに不安なんですね。」
 「そりゃあ、何十年も暮らしている、慣れ親しんだ所から出て、全く新しい所に行くのって、誰でも不安になるわよ。」
 「そうですね。無理せず、そっとしておくのがいいんでしょうね。

 それを聞いて先輩の動きが止まった。そして、急にこわい顔になって言った。
 「ちょっとついてきなさい!」
 先輩は相談室を出て、病院の裏手に向かった。


(つづく)

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