2014年7月4日金曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人19

 「野間君。僕ってさぁ。医者だよね。どう思う?僕のこと?」
 唐突な問いで野間は躊躇した。
 「えっと。えっ?」
 「いや、さあ。医者になるためにはさ、何百万どころじゃないお金がかかるよね。ってことはさ、お金待ちの家に生まれないとなれない。極端に言えばね。」
 「はぁ」
 「医学部への入学もさ、人が遊ぶ時間にも、寝る間を惜しんで勉強してさ、入学しても6年もああだこおだとやるわけだ。だから、少なくても10年ぐらいはまともな生活できないんだよね。その頃にはボロボロよ。」
 「はぁ。大変ですね。」
 「大変ってもんじゃないね。ホント。だからリタイアする奴も結構いるのよ。」
 「はぁ。そうですか。」
 「けど、それをくぐり抜けた人が医者になれるわけ。希望者からいえばほんの一握りの人間だよ。分かる?」
 「ええ分かります。」
 「つまりよ。僕はその一握りの選ばれた人間だってわけ。そうでしょ。ねっ!」
 野間は何だか自慢話を聞かされているようで辟易してきた。
 「実際さぁ。医者だって言えば、みんなすごいって言うよ。金もがっぽりで、女はほっておかないしね。」
 野間はあいづちするのも面倒になってきた。しかし、山崎先生は一向に気にせず続ける。
 「もちろん。元からハンサムだっていうこともあるがね。あはっあはっあはっ。」
 うんざりして、野間は、“ウナギ犬みたいな顔して”っと心の中で悪態をつく。
 そして、もう我慢できないと思い、グループワークの話を強引にしようと思った時だった。
 山崎先生が立ち止まって、一転、悲しい表情になった。そして、こう続けた。
 「僕は患者を殺した。この手でね。」


(つづく)



 

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