2014年7月17日木曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人21

 野間は、なんの反応もできず聞き入っていた。

 「あはっあはっあはっ。病院を辞める覚悟で、他の先輩や院長に言ったら、医者なら、そんなことは誰にでもあるから気にするなと言われたよ。事故だとね。けど、私の責任だよね。それ以来、ESの機械を手にすることができなくなった。手が震えてね。どうしたらESをやらずにすり抜けられるか、そればっかりを考えてた。」
 野間は聞きながら、山崎先生自身が支援を必要としていると感じた。患者に対してそうしているように、野間は、じっと傾聴の姿勢を示した。
 山崎は続けた。
 「私は仕事をしない怠け者になることにしたんだよ。いや、そうしかなれなかった。」
 野間は、そっと伝えた。
 「そうでしたか。」
 「あはっあはっあはっ。」
 「けど、今は薬物療法が治療の中心ですから、ESをやらなくてもいいのではありませんか。」
 「始まったね。薬物療法は、黒船が来たみたいなもんでね。価値観が一変した。」
 「先生も薬物療法に?」
 「いや。当たり前に処方はするけどね。患者を治してやろうと熱くは思えない。私は怠け者だよ。ここでそれを全うすることが、せめてもの。。。」

 野間には、最後は聞き取れなかったが、何を言ったのかは分かる。
 何も励まさず、何も慰めず、野間はただ聞いていた。
 すると、急に山崎が口を開いた。
 「あはっあはっあはっ。ということでさ。私は何もしないよ。ただし、邪魔もしない。それでいいよね。」
 山崎は、満面の笑顔で言った。
 野間は、なんだかちょっと涙がにじみそうなのをこらえながら、はい!と返事をした。


(つづく)



 

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