2014年9月25日木曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人31

 「ただのサボりではないということですか? もしそうなら、そもそもサボりの語源は、」
 「はい。単なる面倒くさいとか、面白くないとか、そういうことじゃなくて。もちろん、退院したくないという気持ちがあるのだとしても、感じるんですよね。もっと深い所からくる違和感を。」
 福田は少し考えて、きっぱりと言った。
 「じゃあ聞けばいいじゃないですか。本人に違和感を感じると言えばいいじゃないですか。そもそも、違和感を媒介に、心的深層意識を現実意識に求めた研究者は、」
 「そっそんなことしてもいいんでしょうか? 相手に嫌な思いをさせないでしょうか?」
 「嫌な思い? それをアスペの僕に聞いていますか? そもそもアスペルガー症候群とは、」
 「あっ。すいません。自分で考えるべきことでもありますよね。けど、なんだか話せてよかったです。ありがとうございました。」
 そう言って別れた後、野間は相談室の前を通り過ぎて、医局棟に向かった。

 医局の部屋に入ると、ビクッと立ち上がる影が見えた。成宮先生だ。
 「おっおぉ。野間君かぁ。びっくりさせるなよ。お前の先輩かと思ったじゃないか。お前らオーラの色が似てんだよ。」
 「はぁ。そうですか? 全く違う人間だと思いますが。」
 「そんなことより、何の用だ? こっちは、机に伏せて瞑想しながら、患者の治療計画を構想していて忙しいんだよ。」
 野間は、ただの居眠りのことね、と思いながら、違和感の正体について聞いてみた。
 すると、「おーっ。いいねぇ。違和感を手繰り寄せて、真実に行き着こうとする姿勢。美しいねぇ〜。」と。
 そして、野間が照れていると、続けてこう言った。
 「ただ皮をかぶりすぎだ。」
 「皮ですか?」
 「そう皮。このヒントについては、お前の先輩に聞いてみろ。僕皮かぶりですかってな! わっはっはっは! リベンジだ! はずかしめて、奴にリベンジしてやる! わっはっはっは!」
 野間が引いて見ていると、冷静になったのか。真顔になって言い直した。
 「いや待て。今のは無しだ。取り消してくれ。倍返しだ!って言ってきそうだよな。うん。やめよう。」とつぶやいた。
 そして、「殻だ。言い間違えたよ。殻をかぶっていると言いたかったんだ。」と言った。
 野間が考え込むと「あとは自分で考えろ」。そう言うと、シッシッと手で追い払われた。

(つづく)




 

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