2015年4月14日火曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人49

 「けど、ドクターの指示があってのことではないですか?」
 「いえ。私達もそれが正しいと思っていたわ。確かに、落ち着く患者が結構いたのよ。」
 クイッと熱燗を空けてから続ける。
 「あの頃の精神病院ってさぁ、荒れてたのよ。状態の悪い患者が多くてさぁ。看護者にも向かってくんのよ。もちろん、他の患者にも向かっていくわ。そんなことになったら、冷静に話し合いなんて場合じゃない。自分の身を守るためにも、他の患者を助けるためにも躊躇してらんないわ。私は飛びついて、山嵐を繰り出したわ。倒してからの袈裟固への移行は天下一品よ。そこらの軍人あがりの看護人にもひけを取らなかったわ。」
 「軍人あがり、ですか?」
 「そうよ。昔の精神病院はそういう人、多かったのよ。ヤクザあがりもいたわね。」
 野間は驚いた。それだけ精神病院の看護師は過酷な状況で働いていたということだろうか。状態の悪い患者の暴力。それに応じるための暴力。力には力で応じるしかなかった。看護師には看護師の正義があった。
 それは、野間には想像するしかないが、藤さんの話を聞いているとそう信じられる気がする。
 
 藤さんは続けた。
 「だから、暴れる患者には、いいえ、暴れる患者だからこそ押さえつけてESをやったのよ。もちろん、先生の指示があったからだけどね。けど、必死だった。拷問だと怒鳴られても、怖がられてもね。鬼で結構よっなんて思ってやってたわ。」
 野間はゆっくりとうなづいた。
 「けどね。けどこうして年取ってくると、あの時に必死でやっていたことが本当に良かったのか。それを考えちゃうのよね。」
 ふと顔を上げ、野間を見ながら続ける。
 「あんた達みたいな大学出の学士さん達から見ると、馬鹿なことしたと思うんでしょうね。ふふふ。」
 そう言って、鼻で笑った。
 野間は何と返していいのか迷った。
 すると、酔いが回っていい調子の師長が割り込んできた。
 「私がナースになったのは薬が出た時期だったけど、あの時の藤さん覚えてるわ。ある事件があって、それはかっこよかったのよお。うふふ。」
 師長が意地悪そうに笑った。
 藤さんが慌てて「ちょっとぉ。師長。変なこと言わないでよ。」と言った。
 

(つづく)


 

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