2015年4月6日月曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人48

 「さあ飲もう飲もう。支払いは心配しないでくださいね。皆さん。
 そう言って満面の笑みで男物の財布をかかげた。そして、いたずらっぽく伏せている成宮を指差した。
 みんなが苦笑いする中、先輩が上機嫌で注文を取る。

 先輩のテンションはいつもの通り、あっという間に他を巻き込んで盛り上げる。
 「ねぇ野間君。藤さんって年齢の割に体がしっかりしていると思わない?」
 「えっと、そうですね。そういえば。」
 「藤さんってさぁ、柔道の国体選手だったんだよ。」
 「へー。」
 「得意技が」
 そう言って、すっと割り箸をマイクに見立てて、藤さんに向ける。
 「山嵐!」
 「あだ名が」
 「ヤワラちゃん!」
 「ビンゴー!!」
 藤さんもまんざらではない様子で、山嵐の投げ方の解説を師長にしている。

 あっという間に、藤さんも酔いが回ってきているようだ。
 すると、藤さんから、隣に座っている野間に話しかけてきた。
 「そういえばさぁ、病棟の倉庫の古いカルテ見たでしょ。あれどうだったの?」
 野間は少しドキッとしたが、飲めない酒に酔っていて思ったことを口にしてしまった。
 「いや〜。ひどいなぁと思いましたよ。ESのゴム印だらけでしたからね。閉鎖の山田さんなんか、拷問だって言ってましたよ。」
 言った後ではっとした。藤さんが固まっていたからだ。
 「あっ、いや拷問というか、」
 「いえ。いいのよ。患者からすれば、まさしく拷問よね。」


(つづく)



 

0 件のコメント:

コメントを投稿