2014年12月2日火曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人37

 「クレームぐらいでがたがた言ってんじゃないよ。それから、経営のことは俺達には分からんが、ああいう役割の人間も必要だろ。」
 「そうそう。」
 「わっ! 先輩。」
 「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン。」
 「どうしたんですか。急に。それに、岩田さんが必要って?」
 「うん。では、迷える子羊に室長語録帳から答えてしんぜよう。」
 「よっ! 出た! 愛の伝道師!」星原が面白がって景気をつける。
 「おほん。精神科病院は、患者さんのために真面目にやればやるほど儲からない仕組みになっているのよ。」
 「真面目にやるほど儲からない、ですか?」
 「そうそう。医者が外来で、患者さんのために面接を1時間やったって、3分で終わったって、病院に入るお金は一緒なのよ。それで、診察料は全体的に低く抑えられてるんだからたくさんやらなきゃ病院は赤字になる。臨床にいる私たちは患者さんのためにやりたいけど、それじゃあ病院が潰れてなくなっちゃうってこと。おまんまの食い上げってこった。べらぼうめぇ!」
 「じゃあ、岩田事務長と同じに、精神保健福祉士も病院の経営のことを優先して考えろということですか?」野間は、納得できないといった顔で言った。
 「違うわよ。全く無視していいとは言わないけど、経営を考えるのは私達の役割じゃないわ。ソロバン野郎の役割よ。私たちは患者さんのために何ができるかを考える。だから、当然、ソロバン野郎とぶつかるのよ。でもそれでいいの。そのせめぎあいが無ければバランスは保たれない。」
 野間は、聴き入っていた。いや成宮先生も星原もそうだ。じっとその演説に耳を傾けている。
 「つまり、ソロバン野郎とケンカしていいのよ。もちろん、ペガサス流星拳を繰り出すような本当のケンカじゃないわよ。どっちが正しいのか競い合う、という方がニュアンスが近いかな。そして、これだけは忘れないで欲しいんだけど、常に私達が完全な正義で、相手が完全な悪ではないということ。そう見えてしまうけどね。私達には私達の正義があるように、相手にも相手の正義がある。あのソロバン野郎にもね。」
 「岩田事務長にとっての正義、ですか?」
 「そうそう。単なる金もうけではない正義よ。・・・知りたい?」先輩はにこにこして言った。
 野間はもちろん、「はい。知りたいです」と答えた。すると、「ダメよ~。ダメダメ」。

(つづく)



 

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