2014年12月9日火曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人38

 「朱美ちゃん。いいじゃ〜ないかぁ〜。 」星原が面白がって言う。
 野間は気になったが、先輩のいたずら顔が治まっていないので諦めた。この顔になったら、ちょっとやそっとじゃ終わらない。

 野間は諦めて、ナースステーションを出ようとしたが、思い出したように成宮に聞いてみた。
 「そういえば、小林さんが、自分は水草だって言うんですがどういうことなんでしょう?」
 「ん? それはお前、、ああ!そうだった。」
 「え?」
 「あっ!いやいや。えっと。う〜ん。あっそうそう。」
 何かひらめいたように言った。
 「俺はわからんが、水草って言ったの誰かいたなあ? ああっ! 山田さんだ。山田さんに聞いてみるといいかもしれないぞ。うん。そうだそうだ。」
 なんだか棒読みっぽい言い方で変な感じだが、一応、尋ねた。
 「山田さん?」
 「おおっ。小林さんと同じ時期に入院した患者だよ。会話できるかどうかはお前次第だがな。わっはっはっは!」面白そうにそう言い放った。

 山田さんとは、隣りの閉鎖病棟の患者さんだ。
 終日鍵がかかる閉鎖病棟に入っているだけあって、病状は重い。誰かに危害を加えるわけではないが、他からの声掛けには反応せず、ムッツリと怖い顔でただ座っている。
 野間は、参ったなぁと思っていた。
 実は、担当の病棟は違うが、就職してすぐの研修で閉鎖病棟に入った時、山田さんに何度も話しかけたが何の反応もしてもらえなかったことがあるからだ。その時もしつこく食い下がったが、結局、あえなく撃沈した。あの山田さんから話を聞くなど、無理だろうと思っていたのだ。

 しかし、この面白がって試すような成宮の顔を見ると、できないとは言えない。
 野間は平静をよそおい、「なるほど。では、聞いてみます。」と答えた。

(つづく)



 

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