ようやく、一呼吸つき、他の部分にも目を向けられた。
よく見てみると、分厚いそのカルテは、 大きく二つに分かれているようだ。五対一ぐらいの分量。
どうやら、その少ない方が医師のカルテで、 大きい方が看護記録のようだ。
よく見てみると、分厚いそのカルテは、
どうやら、その少ない方が医師のカルテで、
医師のカルテには、 患者の写真や住所などが書かれたものが一番上にある。今ではフェイスシートとも呼ばれる、 患者の個人情報が書かれたものだ。住所は、日本海側の小さな村の場所が書かれていたようだが、 二重線で消されている。その上に、 新たに書き加えられている住所は、この病院のものだ。
これは何も珍しいことではない。両親が亡くなり、 面倒を見られる家族がいなくなれば、 生活保護を受給することを考えて、住民票を病院に移動するのだ。この時点で、実家の家も処分されている場合も多い。そうなれば、当然、退院の道は大きく閉ざされる。
これは何も珍しいことではない。両親が亡くなり、
もう一つの大きな束が看護記録。表紙に同じ写真が貼られている。こちらには、フェイスシートはない。名前と写真のみ。
一枚めくると、墨書きで細かく記述がある。 毎日の様子を箇条書き的に書いてあるようだ。毎日、 基本的には一行ずつ書かれている。
一枚めくると、墨書きで細かく記述がある。
野間は、医師のカルテを取り直し、大きく深呼吸した。
他の患者のカルテであったが、以前見たカルテにあったESの印鑑の無機質な羅列。あれがこの小林さんのカルテにもあるのではないだろうか。いや、きっとある。そう思おうと、やはり以前見たESの記憶がよみがえり、ぐっと胃の辺りが重くなる。
他の患者のカルテであったが、以前見たカルテにあったESの印鑑の無機質な羅列。あれがこの小林さんのカルテにもあるのではないだろうか。いや、きっとある。そう思おうと、やはり以前見たESの記憶がよみがえり、ぐっと胃の辺りが重くなる。
それでも、ゆっくりではあるが、意を決して開いた。
最初のページの記述に目を向けようとするができない。無意識的に、引っ張られるように、ぱらぱらとめくる。ドキッという動機とともに、やはりそれを見つけてしまった。
圧倒的な存在を誇示するかのように、それはそこにあった。
「ES施行」
ゴムで作られた印。ややかすれているが、太く、確かに、無機質に。それは、一つではない。間をおかずにいくつも連なっている。どこまでも続いているような、終わりの無いような。
ぱらりぱらりとページをめくる手が少ししびれてきたような気がする。それでも、止められない。めくるたびに、鈍く、重く、それは姿を現し続ける。繰り返し現れる姿に、野間は目まいを覚えた。それでも止まらない。呆然とただめくる動作が惰性となって、ただ動いているような、そんな錯覚にも陥った。
(つづく)
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