2015年1月6日火曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人40

 鍵を使って病棟に入り、入ってすぐのナースステーションに声をかけた。
 「成宮先生から山田さんと面接するように言われて来ました。」
 「はいはい。どうぞ。部屋にいると思いますよ。」
 中年の男性看護師が返事する。

 閉鎖病棟は男性看護師の割合が高い。いざという時に、状態の悪い患者に対応するためだ。
 精神科病院の男性看護師はそのような役割も担うため、腕っぷしのいい人が少なくない。
 あまり活躍する場面がないにこしたことはないが。

 野間は、各病室の入口付近にある名札を確認しながら廊下を歩いていく。
 昼下がりの時間帯で昼寝をしている人が多いせいか、病棟は静まり返っている。中央のフロアーにあるテレビの音だけが小さくノイズのように聞こえる。
 日当たりはあまり良くない。薄暗く、ひんやりとしていて、やや湿気を感じる。

 野間は、迷わず、更に奥に進む。去年と部屋は変わっていないだろう。
 予想通り、一番奥の部屋の山田さんの名札を確認し、緊張しながら、そっと中を覗き込む。
 4人部屋の一番奥。鉄格子がはめてある窓から外を眺めるように、ベットに腰を掛けている山田さんを見つけた。どうやら部屋に一人のようだ。

 野間は、一呼吸してから明るく声をかけた。
 「こんにちは。ケースワーカーの野間です。ちょっとおじゃましてもよろしいでしょうか?」
 山田さんは反応しない。
 野間は、予想通りという風に続けた。
 「いや〜。今日はいい天気ですねぇ。」そう言って、ゆっくり窓に向かって歩いた。
 窓に向かって座る山田さんの隣あたりに来て、もう一回「いや〜いい天気だ。」と言って立ち止まった。
 「そう思いませんか?」そう言って山田さんに顔を向ける。
 しかし、全く反応はない。
 山田さんは、誰もいないかのように、ただ変わらずに外を眺めている。


(つづく)



 

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