2015年1月15日木曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人41

 まただ。野間は、新任研修の時の再現にがっくりとした。
 前回は、最後は諦めたが、成宮先生の手前、今回はそうはいかない。

 隣に立ったまま、「明日も晴れるといいですね。」「朝晩はやっぱり冷えますよね」「風邪をひかないようにしないといけませんよね」などなど。野間は、思いつくままに話しかけた。
 しかし、反応はない。

 話しかけて無視されることほど辛いことはない。いたたまれない気持ちになる。
 野間は、どんどん意気消沈していき、早くこの場を去りたい気持ちが強くなっていく。
 そこを振り絞って、場の雰囲気を変えるために冗談を言ってみよう。それでだめなら今日は退散だな。
 野間はそう思って、半分諦めながら冗談を言う材料をさがす。すると、窓の外に近くの銭湯の煙突が見える。野間は、これでいいかぁと決めた。

 「あっ。銭湯の煙突から狼煙が上がっていますね。何の暗号でしょうね。」
 冗談っぽく言った。
 すると、山田がビクッとした。野間がその反応に驚いて見ていると、ゆっくり顔を向け怯えた表情で小さな声で言った。
 「あっあんた、分かるのかい?」
 「えっ?! えっと。・・・。はい。分かります。」

 野間は、もちろん、よく分からなかったのだが、何かのきっかけがつかめたかもと思い、話しを合わせることにした。

 山田は、少し怪訝そうな顔をしながらじっと野間を見ている。
 野間も自信有りげな表情を造って、その視線に耐えていた。
 しばらくして、山田が口を開いた。
 「あんた新人だろ?」
 「はい。新人です。」
 「そうだろう。見りゃあ分かるよ。俺は40年だ。」
 「40年?」
 「ああ。スパイになって、もう40年が経っちまった。へへへ。」そう言って不敵に笑った。


(つづく)




 

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