2014年10月13日月曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人33

 あれから一週間。
 第二回目のグループワーク、一歩の会の日が来た。担当は作業療法士の星原。
 順番を決める時、「俺だ俺だ」とうるさいのでみんなが譲った。

 結局、小林は来なかった。朝の検温の時に声をかけたら、「はい。行きます!」とはっきりと答えていたのに。
 会自体は上手くいった。人前に出るのが好きな星原は、場慣れしているようで、ジョーダンを交え、うまく盛り上げながらすすめていた。
 しかし、野間は、小林のことで頭が一杯だった。

 終了後、星原から「どうだ! 上手く行っただろ。」と言われたが、持ち上げる言葉は言えなかった。
 野間は、小林が2回も、来ると宣言しておきながら来なかったことで、また裏切られたような気がして怒りを感じていたからだ。
 察したように星原が言った。
 「小林さんは来なかったな。」
 「ああ。朝の検温でも、来るって言ってたんだけどなぁ。」
 「なんで来ないんだって、聞いておこうか?」
 「いやいや。どうせこの後に病棟行くからいいよ。」
 野間は、星原に任せるときつく言いそうだったし、自分で聞かなくてはとは思っていたので慌てて答えた。

 病棟に行くと、フロアーに小林がいた。また、一人でテレビを見ている。
 「こんにちは。」野間が声をかけると、また慌てることなく落ち着いて答える。
 「こんにちは。一歩の会が終わったんですね。」
 「はい。今回も欠席でしたが、体調が悪いのですか。」
 「ええ。申し訳ありません。けど、もう大丈夫ですので。」
 そう笑顔で答える。

 また野間は、その笑顔に違和感を持った。
 そのため、“聞くのは今だ”そう思った。しかし、聞いて嫌な思いをさせないか。そう思うと躊躇する。
 前回と同じように、散歩に行くために立ち上がろうとする小林。
 “自分の殻を破る”、“自分が傷つくのが怖いだけ”。その言葉が脳裏をよぎった。と同時に、野間は声を発していた。
 「どっ、どうして。どうして、そうにこにこしていられるのでしょうか。怒っているわけではありません。怒っているわけではありませんが、ただ不思議な気がします。不思議な気が。」
 野間は、自分の表情が小林に、怒ったように見えないように意識し、小林の言葉を待った。
 小林は笑顔のままで表情を変えずにこう言った。


(つづく)



 

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