2014年8月19日火曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人26

 少し離れにある作業療法棟に向かう。入ってすぐのスタッフルームを覗くと、作業療法士の星原がいた。星原は野間と同期入職。業務上、関わりが多いせいかややライバル視していると野間は感じていた。良い意味で。
 「おっと。星原。山本室長は?」
 「ああ。まだプログラム中だよ。なんの用事?」
 「う~ん。いや実は、病棟で、長期の患者さんを対象にしたグループワークを始めようとしていてね。」
 「ふーん。いいねぇ〜。それで山本室長を通して俺に参加要請に来たと。」
 野間は、そこまで考えていなかったが、まあそうなる可能性が高いから、気を良くさせておこうと思った。
 「そうそう。そういうこと。星原がいないとと思ってね。」
 「何言っちゃってんだよ〜。何も出ないよ〜。勘弁してくれよ〜。」と嬉しそう。
 「ただし、お前の下につくわけじゃないぞ。」
 「もちろん。対等な協同関係だよ。」
 「よし! じゃあ室長には俺から言っとくから。」
 「おう。サンキュ。じゃあ。近いうちにミーティング設定するからよろしく。」
 「オッケー」

 さて、次はドクターだ。野間は医局に向かう。
 野間が「失礼しま~す。」と医局に入るが誰もいない。けど、まさかと思い成宮先生の机側を覗く。すると、やっぱり。机に伏せている成宮先生を発見した。酒の匂いをさせ、小さく「う~。」とうなっている。明らかに二日酔いだ。
 「先生。大丈夫ですか?」声をかけるとかろうじて聞き取れるぐらいの声で返事が帰ってきた
 「うるさい。静かにしてくれ。俺は今日ちゃんと外来もこなした。今は患者とのやり取りを思い出しながら治療方針を検討中だ。」
 困ったなぁと思っていると後ろから殺気を感じた。慌てて振り返ると、ニヤニヤと嬉しそうな先輩が立っていた。
 「ぷぷぷぷっ。みーつけた。外来でグラングランしてたからさぁ。ぷぷぷぷっ。」先生に聞こえないように囁いて、野間に向けてシーっと合図した。
 先輩が孫の手やマジックを物色して戻ってきたので、野間はとりあえず「では私はこれで」っと帰ろうとした。
 すると、声を殺して先輩が「何よ!これから面白いところなのに。まぁいいわ。それで、ナル先生に何の用だったの?」と言ってきた。
 野間は、山崎から断られたので成宮に頼みに来たのだと説明した。
 すると、「オーケーオーケー。私が了解取っとくわよ。バッチリとね。ぷぷぷぷっ。」と笑った。
 野間は、鳥肌を抑えつつ「では、お願いします。」とその場を去った。医局の方からの「ぎゃー!!」っという悲鳴を聞きながら。

(つづく)



 

2014年8月14日木曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人25

 「実は、病棟で長期入院患者を対象に、集団療法を意図したグループワークを行いたいと思っているんです。」
 「ほうっ。集団療法? 集団療法とは、単なる集団に対して行われるアプローチですが、意図するところは集団精神療法ですか? それによって、」
 「あっ。はい。その通りです。集団精神療法です。そこで、福田さんにもぜひ参加頂きたくて。」
 「ふむ。いいですよ。心理職ですから、精神療法と聞いて嫌とは言えませんからね。そもそも精神療法の起源は、」
 「よっよかった! それでですね、概要を考えてみたんです。」
 「ほう。」
 「週1の5〜6回程度で1クール。専門家による講義と患者同士の意見交換のセットです。」
 「うむ。スタンダードですね。バランスもまとまりも良いでしょう。ただ、誰を呼ぶかによって、
 「あっと。はい。それはですね。ドクターは成宮先生。看護師は婦長。心理が福田さんで、作業療法士の山本室長。精神保健福祉士が先輩です。」
 「ふむ。まあいいでしょう。妥当ですね。なぜ私が妥当だと言ったかですが、」
 「おっと。そうだ。まだ山本室長に話していないからいそがなくては。それでは、これで。」
 そう言って、野間は、心理室を抜け出した。

 ちなみに、これぐらいあからさまでも福田さんは機嫌を悪くしたりはしない。先輩が最初、このように接しているのを見てびっくりしたが、これがお互いにいいのだと野間も思うようになっていた。

 さて、最後は作業療法士(OT)の山本室長だ。山本室長のことは心配していない。この病院では、珍しく(?)常識的な人だ。ただ、前に出るのが好きではないから、きっと誰かにふるだろうとは思うが。まあそのぐらいだ。

(つづく)




 

2014年8月7日木曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人24

 「はい。どうぞ。」
 無機質な声が返ってきた。
 野間は、深呼吸し、思い切ってドアを開けて中には入った。
 「おう。これはこれは野間さん。どうしました?」

 中にいたのは、この病院で唯一の心理職、臨床心理士の福田だ。
 中年の小太りの男性。不機嫌なわけではなく、いつも無表情。それに、性格というか、性質にやや問題がある。

 「野間さんが来るということは、ドクターの心理検査の処方箋を持ってきたのですか? いや、それは看護助手の仕事だ。看護助手もこの業務を病棟から出る息抜きに使っているから、そう簡単に代役を頼むはずはない。病棟看護人員も今日は不足ないはずだ。いま病棟で特段大きな病状悪化の患者もいない。ということは、精神保健福祉士の野間さんが持ってくるのは不自然だ。妥当性がない。それとも、患者のコンサルを求めに来たのですか? それとも。」
 「いやいや。実は折り入って相談があって来ました。」

 野間は、予想通りの福田の反応に「出た。めんどくさい。」と心で思った。
 一言言うと、10の理屈が帰ってくる。本人は理論建てているつもりなのだろうが、回りくどくて人を辟易とさせる。そして、それに気づいていない。相手の感情を理解し辛いようで、自分で発達障害のアスペルガー症候群だと公言している。
 ただ、知能指数は明らかに高いらしい。普通100ぐらいであるところを、170あるのだと自慢しているのを聞いたことがある。
 最初の挨拶で、いつも「アスペの心理士、福田です。」と自己紹介をする。これは先輩がアドバイスしたらしい。それ以来、言葉は悪いが、いわゆる先輩になついている。先輩のようにユーモアのある振る舞いをしたいのだそうだ。


(つづく)