2014年6月27日金曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人16

 結局、その日の夕方まで捕まらなかった。しょうがないので、帰宅前に立ち寄る医局前で待つことにした。
 待っていると、ゆうゆうと山崎先生があらわれた。
 「おっ。野間君じゃないですか。どうしたの?」
 白々しいと思いながらも、そこには触れずに野間は答えた。
 「いや。あの。病棟でのグループワークのことですが。」
 「おおっ! そうだったな。」
 わざとらしいオーバーリアクション。
 「そのことは明日にしてよ。今日は、忙しかったんだよねぇ。あはっあはっ!」
 病棟にも来ずに何が忙しかったのやら。しかし、その証拠もない。逃げてるんじゃないかと迫っても、それを認めるわけもない。
 野間は、しょうがないので、その場は諦めた。

 しかし、次の日も、その次の日も、またその次の日も同じだった。
 「腹が痛い」「研修に行く」「家で飼ってる亀が危篤」などなど、帰り際は、様々な理由をつけて帰ってしまう。
 しかも、ペットまで理由に入れられると、他にも際限なく理由は出てきそうだ。
 かといって、日中にどこにいるのか分からない。
 野間は、さては、さぼって院外に出ているんじゃないだろうかと思った。
 そこで、先輩に聞くと、「院内にいるわよ。」と即答。
 「あれ? 先輩は知っているんですか? 山崎先生にがどこに隠れているのか。」
 びっくりして聞くと。
 「そりゃ知ってるわよ。みんな苦労するんだから。あのウナギ犬。あの室長だってそうだったのよ。」
 にこにこと楽しそうに言った。野間は、ダメだろうとは思いながら、一応聞いてみた。
 「先輩。場所を教えてくれたりは。。。」
 先輩はニヤリと笑った。
 「。。。しないですね。はい。了解です。」
 「ただし、ヒントはあげるわよ。いい?」
 「あっ。はい。お願いします。」
 「では、迷える子羊よ。室長語録を授けよう。しかとお聞きなさい。えへん。」
 先輩は、うやうやしく一呼吸おいてから話した。
 「木を隠すなら森へ」
 あれ?野間は、やはりよくわらない。そこで、本題から外れるが疑問をぶつけてみた。
 「ちょっと聞いてもいいですか?」
 「何よぉ。ヒントはあげたでしょ!」
 「あっ。いやいやそのことじゃなくて。純粋な疑問なんですが、先輩はなぜ直接答えを教えてくれないんですか? いや文句ではなくて純粋な疑問です。」
 怒るかなっと思ったが、先輩は冷静に答えてくれた。
 「それはね。答えを教えるのは簡単だけど、簡単なものって中身がスカスカなのよね。」
 「中身がスカスカ、ですかぁ」
 「そうそう。スカスカ。精神保健福祉士って悩むのが仕事、みたいなところがあるでしょ。だから、単に答えを教えるのは、スカスカ指導ってことになるのよ。なんだか、すかしっ屁みたいよね。すかしっ屁ってさぁ、した方は気持ちいいのよね。うふふ。室長が言ってたわ。やだぁ。」
 自分で言っといて、恥ずかしいのかくねくねしだした。

 野間は、それを聞いて、分かったような分からないような。けどまあ、単に面白がっているわけではないのだとは思った。
 そう思っていると、先輩が「もちろん。野間君の反応が面白いっていうのもちょっとはあるかもね。ちょっとはねぇ。私も人間だからさ。」と言った。
 野間は、真面目に言おうとしているが、目が笑ってしまっている先輩を見て、絶対「ちょっと」じゃないな、と思った。



(つづく)




 

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