2020年2月18日火曜日

精神保健福祉士と自由を望まぬ人11

 野間は、脳の深く、芯の部分に麻酔を打たれたかのように、脳全体がジンジンとしびれるような感覚になった。ショックで目の前がくらむ。
 「難しいでしょ。」主任がそう言って、視線を向けてくる。
 気づかれないように、かろうじて「そうですね」と答えた。


 あの時から、一年以上が経つが答えは出ていない。というか、そのことにまだ怖くて向き合えていない。

 うつむく野間を見て、先輩が言った。
 「小林さんのことね。退院支援について考えているんでしょ。」
 野間は、ハッとして顔を上げた。
 「何で分かったんですか?!」
 「当たり前だのクラッカー。そりゃ分かるわよ。いい? 前にも言ったと思うけど、室長語録によれば、クライエントを理解するには、クライエントの過去、歴史を理解することが必要よ。古い患者さんの多くは、ESを受けていたの。小林さんもESを受けていたのでしょう。ESは入院患者にものすごい影響を与えたわ。良くも悪くもね。ESを理解することは、小林さんを理解する一歩になると思うわ。
 野間はうなずいた。けど、どう理解すればいいのか。
 それを察して、先輩が言った。
 「言っとくけど、私に聞いたって分からないわよ。当事者に聞きなさい。当事者にね。もちろん、患者自身だけが当事者じゃないわよ。」
 そう言って笑った。

 野間にはすぐに思い浮かぶ顔があった。
 野間は、急いで立ち上がり病棟に向かった。

(つづく)


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